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石割桜 ; 塗炭の苦しみ

石割桜 ; 塗炭の苦しみ

『虐待』 海の家で…これでも躾?

 小学一年ごろに、遠縁である海のそばにいる親戚の家に泊りがけで遊びに行ったことがあった。
「水着に着替えて、海で遊ぼう。」
と誘われたので、母親の所へ行き、
「お母さん、水着は持ってきているの?」
「持ってきている。」
私は、母親の言葉に、浮き浮きとして、水着を出してもらうのを待った。母親は、荷物をしばらくごそごそとさせていた。
「さ、行きましょう。」
私は、一瞬、きょとんとした。母親が水着になっていたのである。
「私の水着は?」
「あんたのは、ない。」
私は、子ども心にも、母親は自分のことばかりしか、考えていない人だと思った。
「学校の水着があったじゃない。」
私の抗議を無視して、母親は太った体で、すまして歩き出した。結局、母親一人水着になって、私たちは洋服のまま、砂浜を歩くだけだった。
海辺でスイカ割り遊びをすることになって、私と弟が目隠しをして、スイカを割るための細長い棒を持った。
「右と言っただろう。どっちへ行くんだ。」と遠縁の子達は笑っている。
私は方向がまったくわからなくなって、目隠しをはずして、文句を言った。
「どうして。さっき、右と言うから右に進んでいるのに、逆だなんて、おかしい。どっちの側から見て、右とか左と言っているの。私の側から右か左か言ってよ。」
 ふと見ると、母親が、目隠しをした弟の後ろから抱えるように手を回し、棒を一緒に持ちながら、スイカの方へ走りよって、割ってしまった。私は唖然とした。
「割った。割った。」
「うん、僕が割った。」
母親と弟が喜んでいた。私は少し離れたところから、喜ぶ二人を卑怯だと思って見ていた。スイカは持ち帰られたが、破片が少し砂浜に残されていた。私は、ごみは持ち帰るものと思い、そのスイカの破片を拾った。母親はすぐさま、
「汚いから、捨てなさい。」
と私の手を掴むと、激しく振り払った。
「ごみを、あのままにしていていいの。」
母親は無視をして、私の手を掴んだまま歩き出した。
ごみの放置を気にしただけの行動が、ごみを拾って食べようとしてまるでこじきだ、と母親による馬鹿にした噂で、ひそひそと笑われていることを、大人になって知ることとなった。食べようとしたのではなかったことを、そのような話に変えられたことに愕然とした。
遠縁の親戚の家に帰ってしばらくすると、その家族が、スイカを食べていた。
「あれ、K子ちゃん。スイカ食べた?さっきスイカを部屋まで運んだけど。」
「ううん。」
「ここで一緒に食べなさい。」
あまり食べたいと思わなかったので、断っていると、母親が遠くから声をかけてきた。
「K子は、食べちゃ、だめ。服が汚れるでしょ。」
「食べてない。そういえば、スイカ割りするといっていたよね。まだ、やらないの。」
私は少し前に、スイカを冷やしていた所に見に行った。
「あれ、ない。スイカ、どこにいったの。」
「さっき、スイカ割りしたでしょ。」
「え、やっていない。」
私は、このときスイカ割りをしたことを、まったく忘れてしまっていた。たぶん、神経のおかしい子だと思われたに違いない。せっかく楽しみにしていたことを、十分に楽しむことなく、母親から奪われてしまったことが、一時的に忘却させてしまったらしい。

「海で遊ぼう。」
「でも、水着を持ってきていないから。」
「いいよ。そのままで。」
子供同士の元気さで、服を着たまま、波打ち際の水に入りながら、子ども三人でボール遊びをした。弟だけは、一人砂浜でしゃがんでいた。
私は遊ぶことに熱中するあまり、弟のことを忘れていた。
「うえーん。」どたどたと弟は走っていった。弟はどうやら、一人で勝手に転んだようだった。
 すぐに母親が怒ってやってきた。
「何をして、いじめた。」
「え、何も。」
「顔中、砂だらけで、帰ってきた。何もしないはずがないでしょう。」
「ひとりで、勝手に転んだんだよ。」
すると、母親は、服のままで、海の中で遊んでいた私を見咎めた。
「服のままで、海に入ったら、服が汚れるでしょ。それぐらいわからないの。頭が悪いんだから。」
そのまま、母親に無理やり引っ張られて、親戚の家に帰った。シャワー室に連れて行かれて、着ていたワンピースや下着を全部脱がされた。母親は激しく怒ったまま、服を持って出て行った。母親が服を持ってきてくれるのを待った。三十分以上待っても来てくれなかった。私は、母親が服を持ってくる気がないと気づいたが、裸で、親戚の家の中を歩くことが出来ずに、そのまま、シャワー室に籠もったまま、時間が過ぎていった。遠縁の子がシャワー室のドアの外側から、叩き、
「いつまで入っているの。」とからかった。
いつまでも、出ないままでいるわけにはいかないと、意を決して、裸のまま、家の中を必死で走った。出来るだけ早く走った。裸を人に見られないようにと思ってのことだったが、私たちが、泊まることになっていた部屋は、かなり遠く、たくさんの人に見られてしまった。
「あら、服はどうしたの。」
「やーい、やーい、まだ、蒙古斑がある。子どもだな。」
「違う、お母さんに叩かれた、あざ。
わたしは、答えながら、部屋までたどり着いた。
母親は不機嫌だった。
「一枚しかない服を濡らしたから、着る服はないからね。」
そのあとで、おじさんが、買ってくれたピンクのワンピースを着た。ピンクの服を買ってもらったことがないので、とてもうれしくて、はしゃいだことを覚えている。
夕飯時になって、私たちの父親が仕事を終えて、到着した。食卓について、これから食べようとしたときに、母親が、私のことを報告すると、父親は体が汚れただろうから、洗わなければだめだと、食卓についていた私を無理やり、引き摺り上げた。
「ちゃんと洗ったから。」
「だめだ、だめだ。砂が入ったから、きれいに洗わなければだめだ。」
力ずくで、お風呂場まで連れて行かれた。
「自分で洗ったから、いやだ。」
下半身だけ念入りに洗う、父親に対し、
「いやだ、もうやめて。」と抵抗した。
やっと、お風呂場から出てくると、皆は食事が終わっていた。母親は、私をにらむと、
「なんて、大声張り上げているんだ。」
と、頭を叩いた。
親戚の家で、遠慮したのだろう。いつものような二時間に及ぶような虐待はしなかった。しかし、
「反省しなさい。」
と、部屋へ連れて行かれた。


「ここで、正座して、反省しなさい。」
「動いたら、許さないからね。」
と念を押して、部屋を出ていった。
しばらくすると、おじさんが入ってきた。
「お腹すいたでしょ。おにぎり、作らせたから。食べて。」
私は、おにぎりが好きではなかったので、
「いらない。」
「ここに、置いておくから、あとで食べてね。」
私は、畳の上におにぎりを乗せた皿が置かれたのを見て、私はうなづいた。
帰り際に、
「お母さんから叩かれて、あざがあるんだって?」と言って、お尻にあざがあるのを確かめていった。母親がすぐに様子を見に来た。
「反省をするんだから、おにぎりは、食べちゃだめだよ。」「うん、嫌いだから、いい。」
母親は、皿に乗っていた、おにぎりを大急ぎで食べていた。そこへ父親が来ると、母親は、「お皿を返さなきゃいけないから。」
と、食べ終わると、皿を返却しに、母親も父親も部屋を出ていった。廊下で、皿を返している母親の声がした。私のことを心配してくれた親戚には、私がおにぎりを食べたと嘘をついていた。食べたのは、母親で、夕飯を食べた他に、おにぎりを食べたのである。私は、まったく食事をしていない。朝になる前に、親に抱えられて、遠縁の家を出た。抱えられたときに少し目が覚めたが、そのまま寝ていていいということだったので、寝てしまった。目覚めたときは、家の布団の中だった。私は起きると、周りを捜し歩いた。おじさんからもらった、ピンクのワンピースがあったはずだからだ。
「何探してる?」
母親が聞いた。私は、
「ピンクのワンピース。どこに、あるの?」
「そんなのあるわけないでしょう。」
「きのう、おじさんが買ってくれたのがあるでしょ。」
「寝ぼけて、あると思い込んでいるだけでしょ。」
「きのう、着たのがあるでしょ。どこ?」
「ないといっているのがわからないのか。」
母親の口調が、荒々しくなったので、それ以上は言うのをやめた。私は、思い違いなどしていないと心の中でつぶやいた。


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